「増税って聞いたけど、私には関係ある?」と先週、職場の後輩に聞かれた。
正直、その場でうまく答えられなかった。「法人税とたばこだから、会社員には関係ないかな……たぶん」みたいな返し方をしてしまったが、後で調べたら少し違った。
4月1日から「防衛増税」が始まっている。5年間で43兆円の防衛費を確保するための財源措置で、法人税・たばこ税・所得税の3本立てで段階的に導入される計画だ。そのうち2026年4月にスタートしたのは最初の2つ。整理しておく。
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結論:2026年4月に直接関係するのはこの2種類だけ
まず全体像を先に言うと、防衛増税の中で今年4月から始まったのは「防衛特別法人税」と「加熱式たばこ税の引き上げ」の2つだ。所得税の増税は2027年1月から。会社員がもっとも気にするであろう所得税は、今すぐは変わらない。
ただし「所得税が変わらない」イコール「給与明細が変わらない」でもない。子ども・子育て支援金の徴収が4月から健康保険料に上乗せされているので、手取りは少し減っている人が多いはずだ。それは別の話だが、混同しやすいので注意しておく。
防衛特別法人税:会社員には直接関係ないが、知っておく価値はある
防衛特別法人税は、企業が納める法人税に4%を上乗せする制度だ。ただし「基準法人税額から500万円を控除した後の4%」なので、課税所得が比較的少ない中小企業の多くは実質的に免除または軽微な負担にとどまる。
たとえば課税所得が1,500万円の会社の場合、法人税(標準23.2%)は約348万円。そこから500万円を控除すると課税対象はゼロになる——つまり追加負担なし。課税所得が大きい大企業ほど影響が大きい設計になっている。
会社員として働いていれば、この税は会社が払うものであって給料明細には直接出てこない。ただし企業の税負担が増えることで、賃上げ余力や設備投資に影響が出る可能性はある。その意味では「まったく関係ない」とも言い切れない。
個人事業主・フリーランスへの影響は?
個人事業主が払う「所得税」とは別の税なので、フリーランスには直接の影響はない。法人化している場合(一人法人など)は対象になりうるが、500万円控除の仕組み上、利益が少なければ実質無負担になる場合がほとんどだ。
加熱式たばこの値上げ:銘柄ごとにいくら上がったか
喫煙者に直接関係する変化がこちらだ。4月1日から加熱式たばこの税率が引き上げられた。
IQOSテリア(フィリップ モリス):580円→620円(+40円)。PloomX・Ploom TECH+のメビウス系(JT):520円→550円(+30円)。glo(BAT)は4月は据え置き。加熱式たばこの中でも銘柄によって対応が分かれた。IQOS・Ploomユーザーには1箱あたり30〜40円の上昇だ。
「たった40円か」と思うかもしれないが、1日1箱のペースで吸っていれば月1,200円、年間で約14,400円の負担増になる。
10月にもう一段上がる
しかもこれで終わりではない。2026年10月1日には加熱式たばこの税率がさらに引き上げられる(第2段階)。さらに2027年・2028年・2029年には紙巻きたばこを含めた全銘柄で1本あたり0.5円(1箱10円)ずつ段階的に上昇する計画が決まっている。
つまり今後3年間、毎年10月か翌4月にたばこが値上がりするスケジュールが確定している。これを機に禁煙を考え始めた人も少なくないのではないか。
所得税はなぜ2027年なのか
所得税の増税が1年以上先送りになったのは、政治的な経緯がある。当初は2025年から始まる予定だったが、岸田政権末期から高市政権にかけて「物価高の中での増税は時期尚早」という判断が重なり、2027年1月にずれ込んだ。
内容としては、所得税額に1%を上乗せする「防衛特別所得税」を新設する代わりに、東日本大震災の復興財源として徴収されてきた「復興特別所得税(2.1%)」を1%引き下げて1.1%にする。差し引きすると税率の変化は相殺されるため、2027年単年度の手取りへの影響は実質ほぼゼロになる仕組みだ。
ただし復興特別所得税の終了時期は2047年まで延長(元は2037年に終了予定)。防衛特別所得税は2037年以降も続く。長期的には確実に増税になる構造だ。……この辺は知らないと損する話だと思う。
なぜ今、防衛費を増やすのか
防衛増税の背景を簡単に確認すると、日本政府は2022年末に「5年間で防衛費を倍増する」方針を打ち出した。2027年度に防衛費をGDP比2%まで引き上げる計画で、5年間の総額は43兆円規模になる。
2026年度の防衛予算はすでに9兆円を超えており、過去最大を更新している。財源はこの増税3本柱のほか、歳出改革や国有財産の売却なども含まれている。
ちなみに世論調査では、防衛増税に反対する人は50.8%と半数を超えている。「防衛費を増やすこと自体は必要かもしれないが、増税で賄うのは反対」という意見が多いようだ。国防の必要性と家計への影響は別の問題として受け取られている。
日本の防衛費がGDP比1%前後に抑えられてきたのは1976年からの「1%枠」という政策によるもので、半世紀近く維持されてきた水準だ。それを一気に2%に引き上げる——欧米のNATO基準に合わせる形ではあるが、財源をどこから持ってくるかという問題は避けられない。増税以外にも国債発行という選択肢があったが、将来世代への先送りを避けるという判断で現役世代への課税が選ばれた。
「防衛増税」という言葉が出始めた頃のことを思い出す
個人的な話をすると、「防衛増税」という言葉が国会で飛び交い始めた2022年末は、「なんか大きな話になってきたな」と思いながらもどこか遠い話のように感じていた。インフレや光熱費の値上がりが続く中で、増税の話が出てくると「今じゃないだろ」という気持ちが正直あった。
3年以上経って、実際に4月1日から始まった。加熱式たばこを吸っている知人は「また値上がりかよ」と言っていたし、経営する会社が法人税の影響を受ける立場の人は「500万円控除があるから中小は大丈夫と言われるけど、実態はどうなのか」と気にしていた。
制度として始まった以上は知っておく必要があるが、「知っておく」と「受け入れる」は別の話だ。せめて自分への影響を正確に把握して、備えられることには備えておきたいと思っている。
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2029年まで続く増税スケジュールをまとめて確認する
いつ何が変わるかを年表で整理しておく。
2026年4月(済):防衛特別法人税スタート/加熱式たばこ税第1段階引き上げ
2026年10月:加熱式たばこ税第2段階引き上げ
2027年1月:防衛特別所得税スタート(所得税額×1%上乗せ)+復興特別所得税を2.1%→1.1%に引き下げ
2027年4月〜2029年4月:全たばこ(紙巻き含む)を毎年1本+0.5円(1箱+10円)ずつ段階引き上げ
会社員で非喫煙者であれば、2026年中は手取りへの直接影響はほぼない。2027年から所得税の仕組みが変わるが、上述の通り実質的な増税感は小さい。影響が大きいのは法人税が増える企業と、たばこを吸い続ける喫煙者だ。
「防衛増税」と「子育て支援金」は別物だが混同されやすい
ここで一つ補足しておきたいのは、4月から話題になっている「手取りが減る」という話には、別の増税が混じっていることだ。
子ども・子育て支援金として、健康保険料に月数百円〜千円弱が上乗せされる制度も4月から始まった。年収500万円でおよそ月480円。こちらは所得に関係なく全員が対象になる。防衛増税(法人税・たばこ)とは財源も用途も別の制度だが、「4月から増税」というひとくくりで語られることが多い。
自分に何が起きているのかを理解するには、「子育て支援金による健康保険料増加」と「防衛特別法人税(直接は関係ない)」と「たばこ税引き上げ(喫煙者のみ)」を分けて考えるといい。すべてを一緒くたにすると余計な不安が生まれやすい。
後輩への返答、やり直すとすれば
冒頭の後輩の質問に戻る。「私には関係ある?」という問いへの答えを今ならこう返す。
たばこを吸っているなら、今月から1箱30〜40円上がってる。今後も毎年上がる予定。法人税は会社が払うものだから直接は関係ない。所得税は2027年からだけど、復興税が下がるから手取り自体はほぼ変わらない。ただし長い目で見ると確実に税負担は増える。
……というのが正確なところだ。複雑な仕組みを一言で説明するのが難しいのは事実だが、「4月から増税」と聞いて漠然と不安になるより、どの税がいつ・誰に影響するかを分けて理解した方が、余計な心配をしなくて済むと思う。


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