正直に言うと、「関税」というニュースが出るたびに見出しだけ読んで流していた。
アメリカと中国の話、輸出企業の話、どこか遠い世界の話のように感じていた。でも去年の春から今にかけて、スーパーの値段、車の見積もり、会社の業績——いろんな場面で「関税の影響」という言葉が出てくるようになって、さすがに無視できなくなってきた。
改めて整理してみたら、日本に住んでいる人間にとっても他人事ではなかった。
まず整理:2025年から2026年にかけての関税の流れ
2025年4月2日、トランプ大統領が「相互関税」を発表した。日本に対しては24%(基本10%+追加14%)が課される内容で、4月9日に高税率分が発動した。この日を境に日本の輸出企業の株価が大きく動き、自動車メーカー各社が緊急対応に動いた。
その後、日米間の交渉が続いた結果、2025年7月に「15%」の暫定合意が成立した。日本がアメリカへの投資を5,500億円規模で積み増すことを条件に、24%から下がったかたちだ。
さらに2026年2月、予想外の展開が起きた。米連邦最高裁がトランプ政権の「IEEPA(国際緊急経済権限法)」に基づく関税の法的根拠を否定する判決を下した。それを受けてトランプ政権は別の法律(通商法第122条)を使って関税を継続する措置を取り、2026年2月24日から150日間の期限付きで運用が続いている。
つまり2026年4月現在、日本への関税は「15%」が続いている。通商法第122条の上限は15%で、7月2025年の合意内容がそのまま引き継がれた形だ(他の多くの国は10%に下がったが、日本は7月の合意で15%に設定されたためそのまま)。この枠組みが7月下旬に期限切れを迎えるため、また次の交渉が必要な状況だ。1年間で24%→15%(IEEPA)→15%(第122条)と法的根拠だけが変わってきた。
自動車メーカーへの打撃:数字で見ると深刻だった
日本の輸出産業のなかで最も直撃を受けたのが自動車だ。
2025年4〜9月の中間決算で、日本の主要7社の関税コストは合計1.5兆円規模に達した。トヨタ・ホンダ・スバルは何とか黒字を維持したが、日産・マツダ・三菱は赤字に転落した。
なかでも日産の打撃は大きく、関税コストだけで少なくとも3,000億円規模の損失が生じた。もともと経営立て直しの途中だったところに関税ショックが重なり、日産の経営状況は一段と厳しくなった。
「日本の車は売れても儲からない」構造に
関税が25%前後かかると、アメリカで車を売っても利益がほとんど出ない。メーカーは対応として、アメリカ国内生産の比率を上げるか、アメリカ向け価格を引き上げるか、日本での生産・雇用を見直すかの選択を迫られた。
実際、複数のメーカーがアメリカ現地生産の拡大を発表した。それは「アメリカで作ればアメリカの関税がかからない」ための対策だが、裏を返せば日本国内の工場ラインが減るリスクでもある。
一般消費者への影響:「物価が上がった」実感の一部は関税由来
日本に住んでいる側からすると、関税の影響はどう出てきたか。
一番わかりやすいのは輸入品の価格だ。アメリカからの農産品(牛肉、オレンジ、ナッツ類など)は関税交渉の文脈で価格が変動してきた。また、円安と組み合わさった輸入コスト増が、スーパーの食品全般の値上がりに影響している。
車については、アメリカ向けの値上がりが国内価格にも波及するケースがある。メーカーが利益を確保するために国内価格も引き上げる動きが出ているためだ。
さらに間接的な影響として、自動車メーカーの業績悪化が下請け・部品メーカーへの発注減につながり、製造業の雇用や賃上げ余力にも影響が出てきた。「なんとなく景気が悪い感じがする」という空気の一部は、この構造から来ている。
日本経済全体への打撃:成長率が削られた
マクロの数字でみると、2025年度の日本のGDP成長率の見通しは、関税問題が表面化した後に1.2%から0.7%前後に引き下げられた。2026年の成長率予測は0.2%という水準だ。
輸出の数字では、2025年5月の対米輸出が前年比11.1%減という結果が出ており、関税の影響が貿易統計にも出てきた。
……ゼロ成長に近い経済の中で物価だけが上がっている、というのが今の日本の状態だ。この状況のなかに関税問題が加わっている。
「24%」という数字が出た時、日本政府は何をしたか
2025年4月の関税発表直後、日本政府は即座に交渉入りした。当時の岸田政権(のちに高市政権に引き継がれた)は農業・エネルギー・防衛分野でのアメリカとの協力を前面に押し出しながら、関税の引き下げを求めた。
交渉の結果として7月に15%の暫定合意が成立したが、この合意は完全な解決ではなく「とりあえず24%よりは低くした」段階に過ぎなかった。その後も自動車関税の扱いを巡る交渉は続いており、全面合意には至っていない。
2026年2月の最高裁判決でIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠とした関税が否定されたことで、一時は「関税がゼロになるのでは」という期待も出た。しかしトランプ政権はすぐに通商法第122条という別の根拠を持ち出し、10%関税を維持した。法的手段と政治的判断の組み合わせで関税問題が動いており、予断を許さない状況が続いている。
関税問題が身近に感じにくい理由と、感じやすくなるきっかけ
「関税」という言葉は、実感として遠い。輸出企業の話だし、アメリカの話だし、自分が今日の晩ご飯に何を食べるかとは直接つながらないように見える。
ただ、影響のルートは複数ある。①輸入品(牛肉・果物・加工食品)の価格が変わる。②自動車メーカーの業績悪化が下請け・部品業者に波及し、地方の製造業の雇用・賃金に影響する。③円相場が関税ニュースに反応して動き、輸入物価全般に影響する。
どれも即日・即月の話ではなく、半年〜1年かけてじわじわ見えてくる影響だ。だから「気づいたら高くなっていた」という形で現れる。今の食費の上昇や車の納期問題の一部は、昨年の関税ショックの遅れた影響だと思っていい。
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自分の生活と関税を結びつけて考えてみた
先日、車の買い替えを検討していた。ちょうど見積もりを取ろうとしたら、担当者から「このモデルは生産調整の関係で納期が伸びています」と言われた。理由は明確には教えてもらえなかったが、国内外の生産シフトの影響が納期に出ているようだった。
直接的に「関税のせいで高くなった」という説明は受けなかったが、関税→メーカーの生産計画変更→納期や価格に影響、という流れは確かに存在している。
スーパーでもここ1年、牛肉の価格が乱高下する時期があった。アメリカ産牛肉は関税交渉の結果次第で価格が変わる。「なんで急に高くなったの?」と思った時、その背景に米国との交渉があるケースは少なくない。
日本の農業・食品はどう影響を受けているか
関税問題はアメリカから見た「日本への輸出」だけでなく、「日本からアメリカへの輸出」にも影響する。日本の農業・食品産業は、アメリカ市場への輸出が縮小するダメージを受けた。
また逆に、アメリカ産牛肉の価格は関税交渉の文脈で変動してきた。日本はアメリカ産牛肉の主要輸入国で、関税状況によって輸入コストが変わる。「去年から牛肉が高くなった」という感覚がある人は、その背景に関税が絡んでいる可能性がある。
さらに円安が絡むと影響が増幅する。円安になると輸入品が全体的に高くなるが、その円安自体も関税ニュースで動く。「物価が高い」という状況は、関税・円安・エネルギー高の三つが絡み合っている。
2026年後半に向けて:また交渉が始まる
現在の10%関税の根拠となる通商法第122条の措置は、150日間の期限付きだ。2026年7月下旬に期限が来る。そのまま終われば関税がゼロになる可能性もあるが、トランプ政権が新たな措置を取る可能性もある。
日本政府は引き続きアメリカとの交渉を続けているが、現時点でどういう着地になるかは見えていない。次の数ヶ月が正念場になりそうだ。
「関税は遠い話」と感じていた1年前の自分に教えてあげたい。これは車のニュースでも株のニュースでもなく、スーパーの値段と、職場の景気と、自分の財布に直接つながっている話だった。
今後の関税がどう動くかは、正直わからない。7月の期限切れ後にまた新しい枠組みが出てくるのか、日米間で本格合意が成立するのか、あるいはトランプ政権が次の一手を打つのか。経済専門家でも予測が難しい状況が続いている。
ただ一つ言えるのは、「知らない間に影響を受けていた」より「なんとなくでも理解して備える」方が対処しやすいということだ。輸入牛肉の価格が上がったら、他のたんぱく源を探す。車の買い替えを検討しているなら、納期や価格の動向を注視する。小さいことだが、情報を知っているかどうかで動ける選択肢が変わる。


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