キオクシア決算2026──純利益2990%増・AI半導体バブルでトヨタ超え予想、日本半導体の逆襲が始まった

日本生活

5月15日の夜、ビジネスニュースを流し見していたら、予想外の数字が目に飛び込んできた。

「キオクシア、純利益2990%増」

2990%。思わずスマホを二度見した。パーセントの読み方を間違えていないか確かめるために。

違わなかった。約30倍だ。一年前と比べて、利益が30倍になったということ。これが一体どういうことなのか、気になって夜中まで調べてしまった。

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キオクシアとは何か──旧東芝メモリの現在地

キオクシアを知らない人もいるかもしれない。NANDフラッシュメモリというジャンルでは世界シェア2位のメーカーで、本社は東京。もとは東芝のメモリ事業部門だった会社だ。

2019年に東芝から分離独立し、社名を「キオクシア」に変えた。社名は日本語の「記憶(キオク)」と「価値(クシア)」を組み合わせた造語らしい。2024年12月には東証プライムに上場を果たし、今では立派な独立した上場企業として存在している。

NANDフラッシュメモリとは、スマートフォンのストレージ、パソコンのSSD、データセンターのサーバーなどに使われる記憶媒体のことだ。ほとんどの人が毎日使っているのに、製品名として目にする機会はまずない。だから知名度は高くないが、現代のデジタルインフラを支える重要部品の一つである。

競合はサムスン電子(韓国)、SKハイニックス(韓国)、マイクロン(米国)など。長年、日本の半導体は韓国・米国・台湾勢に押されて「もう勝てない」と言われ続けてきた。そのキオクシアが、2026年になって突然、ものすごい利益を叩き出している。

キオクシア2026年決算の中身──純利益2990%増の理由

2026年5月15日に発表された決算の数字を整理する。

2026年1〜3月期(第4四半期)の売上収益は1兆29億円。これは四半期として初めて1兆円を突破した数字だ。Non-GAAP純利益は4,099億円で、前年同期比2,990%増。

2990%か。

通期(2026年3月期)でみると、Non-GAAP純利益は5,596億円で、前年比約2倍。さらに衝撃的なのが次の四半期(2026年4〜6月期)の会社予想だ。純利益8,690億円(前年同期の48倍)、営業利益1兆2,980億円(29倍)、営業利益率74%。

営業利益率74%というのが、どれだけ異常な数字かわかるだろうか。一般的な製造業の営業利益率は5〜10%が標準的とされている。自動車メーカーで10%超えれば優秀といわれる業界で、74%という数字は別次元だ。

なぜここまでの利益率が出るのか。メモリ製品は、需要が爆増すると価格が急騰する。原材料費や製造コストはそこまで変わらないのに、売値が上がるから、利益が劇的に膨らむ。これがメモリビジネスの仕組みだ。

2025年から2026年にかけて、まさにその「価格急騰」が起きた。原因はAIだった。

AIブームでNANDフラッシュメモリ需要はなぜ爆増するのか

ChatGPTが2022年末に登場して以降、AIサービスの利用が爆発的に増えた。画像生成AI、動画生成AI、コード補助AI……企業も個人も、あらゆる場面でAIを使うようになった。

AIを動かすには、巨大なデータセンターが必要だ。データセンターには大量のサーバーが並んでいて、そのサーバーには膨大なストレージが必要になる。AIモデルの学習データ、ユーザーのデータ、推論結果のキャッシュ……とにかくデータ量が桁違いに増えた。

データセンターのストレージに使われるのが、NANDフラッシュメモリだ。

マイクロソフト、グーグル、アマゾン、メタ……米国のビッグテック各社はAIインフラ投資に何兆円もの予算をつぎ込んでいる。その投資の一部が、ストレージ調達に向かう。需要が急増すれば、価格も上がる。価格が上がれば、メーカーの利益率も上がる。

この流れがキオクシアの決算に直撃した、ということだ。

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AI前のキオクシアはどうだったか──赤字と苦難の時代

現在の利益爆増を「すごい」と感じるには、つい数年前のキオクシアの状況を知っておく必要がある。

メモリ業界には「シリコンサイクル」という言葉がある。需要と供給のバランスが崩れると、メモリ価格が激しく上下する周期的な変動のことだ。好況と不況が交互に訪れる。

2022〜2023年は、ちょうど不況期だった。コロナ禍で急増したパソコン・スマートフォン需要が一気に冷え込み、メモリの在庫が世界中で積み上がった。価格は暴落。キオクシアも大幅な赤字を計上した。「もうだめかもしれない」という報道が相次いだ時期だ。

…いや、これはちょっと違うか。「もうだめ」というより、「また苦しい時代が来た」という感じだったかもしれない。実は東芝メモリ時代から、このサイクルの波に何度も飲み込まれてきた歴史がある。

具体的に言うと、2022年4月〜2023年3月の通期では、NANDフラッシュメモリ価格の急落で数千億円規模の損失を出していた。当時の業界全体が沈んでいたから、キオクシアだけが特別に弱かったわけではないが、それでも経営的には非常に厳しい時期だった。

その会社が、わずか2〜3年後に純利益30倍を叩き出す。振れ幅が大きすぎて、メモリビジネスの恐ろしさと面白さを同時に感じる。

キオクシアはなぜトヨタ超えの利益を出せるのか──2027年の市場予測

さらに驚くのが、アナリスト予測だ。

2027年3月期(来期)のキオクシアの営業利益について、市場では4兆円規模という予測が出始めている。一方、日本の製造業の雄・トヨタ自動車の今期(2026年3月期)の営業利益見通しは3兆円台。

つまり、旧東芝メモリのキオクシアが、日本最大の企業トヨタを営業利益で超える可能性がある、ということだ。

マジか。

これがどれだけ異常なことか。トヨタは世界販売台数1000万台超、従業員37万人以上を抱える巨大グローバル企業だ。そのトヨタを、社員数約3万人のメモリメーカーが利益で上回るかもしれない。

理由はシンプルだ。メモリの価格サイクルが好況に入ると、利益率が製造業の常識を超えるレベルまで跳ね上がる。74%の営業利益率で4〜6月期の営業利益予想が1兆2,980億円。このペースが続けば、年間で4兆円を超えるのは十分に現実的な数字になる。

ただし、これはあくまで「シリコンサイクルが好況の間」という条件付きの話だ。

日本半導体の逆襲──「負けた産業」が復活する意味

僕がキオクシアのニュースに強く反応したのは、単純に数字が大きかったからだけではない。

「日本の半導体は終わった」という言説を、10代の頃からずっと聞かされてきた感覚がある。かつて世界を席巻した日本の半導体産業は、1990年代以降、韓国・台湾・米国勢に押されて衰退し続けた。NECエレクトロニクス、ルネサス、エルピーダメモリ……経営危機や倒産のニュースが続いた時代だ。

その文脈で、旧東芝の半導体部門が独立して上場し、純利益を30倍にして、トヨタを超えるかもしれないというニュースは、単なる企業業績の話を超えている気がする。

AIという技術革命が、日本の半導体産業に「復活のチャンス」を作った。データセンター向けのNANDフラッシュメモリという分野で、キオクシアはまだ世界2位の実力を保っていた。だからこそ、AIブームの恩恵を直接受けられた。

これを「日本半導体の逆襲」と呼ぶ報道も増えてきている。TSMCの熊本工場誘致、ラピダスの北海道工場建設、そしてキオクシアの利益急増。2020年代後半の日本の半導体業界は、確かに様相が変わってきた。

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リスクも直視する──シリコンサイクルの恐怖

興奮しっぱなしではいけない。冷静に見ておくべきリスクも大きい。

シリコンサイクルは必ず折り返す。AIブームが続く限り需要は高水準を保つかもしれないが、歴史的には「過剰投資→供給過多→価格暴落」というパターンが繰り返されてきた。

今、世界中のメモリメーカーが需要増に対応するため、工場への設備投資を急拡大している。数年後にその生産能力が一斉に稼働すれば、供給が需要を上回り、価格が下落する可能性は十分にある。

また、AIビジネス自体にもリスクがある。投資バブルが弾けた場合、データセンター向けの設備投資が急減速することもあり得る。実際、2024〜2025年にかけて「AIバブル崩壊」を懸念する声は絶えず存在していた。

さらに、地政学リスクも無視できない。米中対立が激化した場合、中国向けの半導体輸出規制が強化される可能性がある。キオクシアの顧客にも中国企業が含まれているため、規制の影響を受けるリスクがある。

トヨタ超えの利益は、あくまで「好況期の話」として受け止めておくのが現実的だ。来年・再来年に同じ数字が続く保証はどこにもない。

よくある質問(FAQ)

Q: キオクシアの純利益2990%増とは具体的にどういう意味?

A: 2026年1〜3月期のNon-GAAP純利益が前年同期比で約30倍になったということです。前年同期が赤字または極めて少額だったところに、AIブームによるNANDフラッシュメモリ価格の急騰が重なり、利益が爆発的に増えました。

Q: キオクシアはなぜトヨタ超えの利益を出せると予測されているのか?

A: 2027年3月期のキオクシアの営業利益は市場予測で4兆円規模とされており、トヨタ自動車の今期見通し3兆円台を上回る可能性があります。AI向けデータセンター需要でメモリ価格が高騰し、製造コストはさほど変わらないため、営業利益率が70%超という異例の高水準になっているためです。

Q: キオクシアの決算が日本経済に与える意味は?

A: 「日本の半導体は終わった」と言われ続けた時代を経て、旧東芝メモリを源流とするキオクシアがAI時代に急復活しました。ラピダスの北海道工場やTSMCの熊本進出と合わせ、日本の半導体産業が再び存在感を示す「逆襲」の象徴として注目されています。

Q: NANDフラッシュメモリとはどういうもので、なぜAIで需要が増えるのか?

A: NANDフラッシュメモリはスマートフォンやSSD、データセンターのサーバーに使われる記憶媒体です。AIサービスの急拡大でデータセンターの設備投資が世界規模で急増し、大量のストレージが必要になったことで、NANDフラッシュメモリの需要と価格が急騰しています。

Q: キオクシアの好決算は今後も続くのか?

A: メモリ業界には「シリコンサイクル」という需要と価格の激しい波があり、好況が永続する保証はありません。現在は好況期ですが、世界中でメモリの設備投資が急増しており、数年後に供給過多になった場合、価格が暴落して利益が急減するリスクも十分に存在します。

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