1,055円。
この数字を知らずに働いている人が、まだかなりいる。
最低賃金というのは「これ以下の時給で雇ってはいけない」という法律上の下限だ。2025年10月に改定されて、全国加重平均が初めて1,000円を超えた。ところが、自分が今もらっている時給が最低賃金を超えているかどうか、正確に確認したことがある人は思ったより少ない。
僕もそのひとりだった。
Photo by Jaison Lin on Unsplash
最低賃金2026年版の全国平均はいくらか──1,055円の意味
現時点(2026年5月)で適用されている最低賃金は、2025年10月1日に改定されたものだ。全国加重平均は1,055円。前年比54円の引き上げで、過去最大の上げ幅だった。
「加重平均」というのがポイントで、単純な都道府県の平均じゃない。人口の多い都市部の賃金が大きく反映される。だから東京・神奈川・大阪のような高賃金地域が数字を引き上げる形になっていて、地方の実態とは少しズレがある。
それでも1,055円という数字は「最低ラインが月8万円台後半から9万円台に上がった」ことを意味する。フルタイム換算で月160〜170時間働くと仮定すると、月収の最低保証が16万8,800円〜17万9,350円になる計算だ。
政府は「2030年代半ばまでに最低賃金を全国平均で1,500円にする」という目標を掲げている。現在1,055円から1,500円は、あと445円。毎年50円ペースで上げても8〜9年かかる。毎年の引き上げ幅をさらに大きくしない限り達成は難しいが、それでも「1,100円超え」は2026年に現実的な数字になっている。
ちなみに最低賃金に違反した使用者には、50万円以下の罰金が科される可能性がある。「うっかり」で済む話ではない。
都道府県別最低賃金ランキング2026──地域格差は今どうなっているか
最低賃金は都道府県ごとに設定されている。2025年10月時点の主要地域の数字を見ると、格差が一目瞭然だ。
高い方から並べると:
- 東京都:1,163円
- 神奈川県:1,162円
- 大阪府:1,114円
- 埼玉県:1,078円
- 愛知県:1,077円
- 千葉県:1,076円
- 京都府:1,058円
- 兵庫県:1,052円
低い方では:
- 岩手県・秋田県・沖縄県 など:952円
東京と沖縄の差は211円。月160時間働けば月33,760円の差になる。年間では40万円以上の差だ。同じ仕事をしていても、住んでいる都道府県で年収が変わる。これは地域格差の問題であり、政策課題でもある。
ただし「地方だから得している」わけではない。物価も違えば、通勤コストも違う。単純な数字の比較では見えない部分も多い。
注意しておきたいのは、「特定最低賃金」という制度の存在だ。業種によっては、地域の最低賃金より高い最賃が別途設定されている。製造業や建設業などが対象になることが多い。自分の業種が特定最低賃金の対象かどうか、一度確認しておくと損をしない。
Photo by Andrew Leu on Unsplash
「知らないうちに損してた」──友人のバイト先で起きたこと
去年の冬、大学時代の友人(今は30代前半でフリーターをしている)と飲んでいたとき、ちょっと驚く話を聞いた。
彼は都内の個人経営の居酒屋でアルバイトをしていた。時給は900円。「まあそんなもんだよな」と思っていたらしい。ところが2025年10月に東京の最低賃金が1,163円に改定されて、ふとバイト先のシフト表を見返したら、自分の時給はずっと900円のままだった。
店のオーナーに「最低賃金が上がりましたよね」と言ったら、「あ、知らなかった」と返ってきたそうだ。
これ、よくある話らしい。特に小規模な個人店では、制度改定への対応が遅れることがある。悪意があるケースもゼロではないが、単純に知らなかったというケースも多い。
友人は結局、店と話し合って過去分の差額を払ってもらった。1ヶ月分だけだったが、それでも数万円になったと言っていた。知っていたかどうかで、これだけ変わる。
…いや、これはちょっと「知らなかったオーナーが悪い」で済む話ではないかもしれない。制度として、もっと周知される仕組みがあってもいいとは思う。でも現実として、まず自分で知っておくしかない。
パート・アルバイトの時給と最低賃金──計算方法と違反チェックのやり方
自分の時給が最低賃金を超えているかどうか、確認するのは実は簡単だ。
時給制の場合
時給そのものが最低賃金以上かどうかを確認するだけでいい。東京なら時給1,163円以上あればOK。給与明細の「時間単価」を見るか、雇用契約書で確認する。
月給制・日給制の場合
こちらは少し計算が必要になる。
月給制: 月給 ÷ 月の所定労働時間 = 時間換算の賃金
この数字が都道府県の最低賃金以上ならOK。
例:月給22万円、月の所定労働時間が160時間の場合
220,000円 ÷ 160時間 = 1,375円/時間 → 東京1,163円を超えているのでOK
日給制: 日給 ÷ 1日の所定労働時間 = 時間換算の賃金
注意点がひとつある。「通勤手当」「家族手当」「皆勤手当」「時間外割増賃金」は最低賃金の計算に含めない。これらを含めた総支給額で比較するのは誤りだ。基本給と一部の手当だけが対象になる。
外国人労働者・技能実習生も同じルール
最低賃金法は日本国内で働くすべての労働者に適用される。国籍は関係ない。外国人技能実習生も、留学生アルバイトも、同じ最低賃金が保障される。これは意外と知られていない。
最低賃金を下回っていたらどうすればいいか──相談窓口と対処法
もし自分の時給が最低賃金を下回っていることに気づいたら、どうするか。
まず、冷静に状況を整理する。
使用者(雇い主)には、最低賃金を下回っていた期間の差額を遡及して払う義務がある。これは法律で定められていて、「知らなかった」は免責にならない。
ステップ1:まず雇い主に伝える
いきなり行政機関に動く前に、まず本人または店長・経営者に「最低賃金を下回っているようなので確認してほしい」と伝えるのが現実的だ。多くの場合、善意のミスであれば修正してもらえる。
ステップ2:解決しなければ労基署へ
話し合いで解決しない場合は、管轄の労働基準監督署(労基署)に相談できる。最低賃金法違反は労基署の取り扱い案件であり、申告すると調査が入る。
ステップ3:証拠を残しておく
シフト表、給与明細、タイムカードのコピーなど、働いた時間と受け取った賃金の記録を手元に残しておくと、後から証明しやすい。スマホで写真に撮っておくだけでも違う。
ちなみに、最低賃金を下回る労働契約は無効だ。契約書に「時給800円」と書いてあっても、都道府県の最低賃金が1,163円なら、法律上は1,163円の権利がある。
Photo by Susann Schuster on Unsplash
2026年の最低賃金引上げ予想──1,100円超えはいつになるか
毎年夏、中央最低賃金審議会が引き上げ額の目安を答申し、それをもとに各都道府県が10月の改定額を決める。2026年も同じスケジュールで動く。
現状から見る予想:
- 2025年改定:全国加重平均 1,055円(前年比+54円)
- 2026年改定予想:1,100〜1,120円程度(前年比+45〜65円)
政府が「2030年代半ばに1,500円」という目標を掲げているため、毎年50円前後の引き上げが続く見通しだ。経済団体(経団連など)は「急速な引き上げは中小企業の経営を圧迫する」として慎重姿勢を示しているが、労働組合側は「物価上昇に見合った引き上げを」と要求している。
実際のところ、東京や大阪など大都市圏では1,100円超えはほぼ確実とみられている。問題は地方だ。地方では人材確保のためにすでに最低賃金を大きく上回る時給を設定している企業も多いが、零細な個人事業者などには引き上げコストが重くのしかかる。
正式な答申は毎年7〜8月ごろ。気になる人は厚生労働省のサイトを定期的にチェックしておくとよい。
103万円・130万円の壁と最低賃金の関係──パートが知っておくべき計算
最低賃金が上がると、もうひとつ影響が出てくる。いわゆる「扶養の壁」との関係だ。
103万円の壁(所得税の壁)
年収103万円を超えると所得税がかかってくる(基礎控除48万円+給与所得控除55万円の合計)。これを気にして意図的に労働時間を減らしているパート・アルバイトは多い。
時給1,055円(全国平均)で103万円に抑えようとすると:
1,030,000円 ÷ 1,055円 ≒ 976時間
週5日働くとして月に換算すると約81時間。週20時間以下のペースでないと超えてしまう。
最低賃金が上がれば上がるほど、同じ年収上限でも働ける時間が減る。これが「時給が上がったのに働ける時間が減った」という状況を生む。
130万円の壁(社会保険の壁)
年収130万円を超えると、配偶者の扶養から外れて自分で社会保険に加入する必要が出てくる。手取りが一時的に減るケースがあるため、「130万円を超えないように調整している」という人も多い。
ただし2024年以降、106万円の壁(従業員51人以上の企業での社保加入義務)の適用が拡大している。最低賃金の引き上げと合わせて、扶養の範囲内で働きたい人は年収シミュレーションを年初にやっておくのが賢明だ。
損をしない働き方のポイントは「壁を少し超えたレベルで止めるのが一番損」ということだ。130万円の壁であれば、超えるなら170〜180万円以上を稼ぐ方が手取りは増える。中途半端な調整が一番もったいない。
よくある質問(FAQ)
Q: 最低賃金2026年の全国平均はいくらですか?
A: 2025年10月改定の現行値で全国加重平均1,055円です。2026年10月改定の見通しは1,100〜1,120円程度と予想されており、正式な答申は2026年7〜8月ごろに出る予定です。
Q: 自分の時給が最低賃金を下回っているかどうか、どうやって確認しますか?
A: 時給制なら自分の時給と都道府県の最低賃金を比較するだけでOKです。月給制・日給制の場合は「月給÷月の所定労働時間」で時間換算し、その数字と比較します。通勤手当や時間外手当は計算に含めません。
Q: 最低賃金を下回っていた場合、さかのぼって差額をもらえますか?
A: もらえます。使用者には最低賃金を下回っていた期間の差額を遡及払いする法律上の義務があります。まず雇い主に直接伝え、解決しない場合は労働基準監督署に相談してください。
Q: パートで103万円以内に収めたい場合、最低賃金が上がるとどう変わりますか?
A: 時給が上がると同じ年収上限に収めるために働ける時間が減ります。例えば時給1,055円で103万円以内に抑えるには年間約976時間(週約19時間)が上限です。時給が1,100円になると上限はさらに短くなります。
Q: 外国人アルバイトや技能実習生にも最低賃金は適用されますか?
A: はい、適用されます。最低賃金法は国籍に関係なく、日本国内で働くすべての労働者に適用されます。外国人技能実習生も留学生アルバイトも、日本人と同じ最低賃金が保障されています。


コメント