ずっと損してたかもしれない。
そう気づいたのは、妻がパートを週3日から週4日に増やすかどうかを話し合っていたときだった。「扶養に入ってるから保険料はかからない、だから安心」という認識でいたのに、調べてみたら話はかなり複雑だった。130万円の壁、106万円の壁、手取りの逆転ゾーン……知らないまま働いていたら、余計に稼いでいるはずなのに手元に残るお金が減っていた、ということが普通に起こりうる。
社会保険の扶養の話は、制度が複雑なうえに毎年少しずつ変わっていく。2026年はとくに変更点がある。今のうちに整理しておかないと、あとで後悔することになる。
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社会保険の扶養とは何か──健康保険と年金、2つの意味がある
「扶養に入る」という言葉、実は2種類の意味が混在している。税金の扶養(配偶者控除)と、社会保険の扶養だ。今回は社会保険の扶養の話に絞る。
社会保険の扶養に入るとは、具体的には次の2つを指す。
①健康保険の扶養(被扶養者)
配偶者や会社員の家族として、健康保険に「ただ乗り」できる状態。自分では健康保険料を払わなくていい。病院に行くときも、保険証は使える。
②国民年金の第3号被保険者
厚生年金に加入している配偶者に扶養されている場合、国民年金の保険料を払わなくても年金を受け取れる資格が維持される。月額16,980円(2026年度)の保険料がゼロになるのは、正直かなりでかい。
この2つがセットで「社会保険の扶養に入っている状態」だ。扶養に入っていれば、本人は保険料ゼロで健康保険も年金も確保できる。だからこそ、外れると家計への影響が大きい。
社会保険の扶養に入れる条件2026年版──130万円と106万円の壁の違い
扶養に入れる条件は、勤め先の規模によって変わる。ここが最大のポイントだ。
基本の130万円の壁とは
原則として、社会保険の扶養に入れるのは年収が130万円未満の人だ(60歳以上または障害者は180万円未満)。ただし、「年収130万円」の計算は過去の実績ではなく、今後12ヶ月間の見込み収入で判断される。
月収に直すと、130万円÷12ヶ月=約10.8万円。この月収を超えそうだと判断されたタイミングで、扶養を外れる必要が生じる。たとえば3月から急に残業が増えて月収が11万円を超えるようになったなら、その時点から計算が始まる、という考え方だ。
もう一つ条件がある。「主として被保険者(扶養者)の収入で生計を維持していること」という要件だ。同居している場合は、自分の年収が扶養者(配偶者など)の年収の2分の1未満であることも求められる。
106万円の壁──勤め先の規模で変わる話
これか。130万円だけじゃなかったのか、と気づいたのが106万円の壁だった。
従業員数が一定以上の企業で働くパート・アルバイトは、次の条件をすべて満たすと自分で社会保険に加入しなければならない。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月収が88,000円(年収換算で約106万円)以上
- 2ヶ月を超える雇用見込みがある
- 学生でない
この「一定以上の企業」の基準が、2026年問題の核心だ。後で詳しく説明する。
扶養を外れると手取りはいくら減るか──保険料の実態
「扶養を外れたら損」というのは、どの程度の損なのか。数字で見てみる。
社会保険(健康保険+厚生年金)の保険料は、月収の約15〜16%を本人が負担する(会社が同額を負担)。月収10万円なら、毎月約15,000〜16,000円が保険料として引かれる。年間にすると180,000〜192,000円。
さらに国民年金の第3号から外れることで、厚生年金の自己負担が発生する。月収10万円の場合、厚生年金保険料(本人負担分)は約9,150円。健康保険料(本人負担分、都道府県や健保によって異なるが)は約5,000〜6,000円程度。合わせると月1.4〜1.5万円、年間で17〜18万円の負担増だ。
これが「手取りの逆転」を生む。扶養内(年収129万円)で働いているときより、扶養を少し超えた(年収135〜150万円)のほうが、保険料負担のせいで手取りが少なくなってしまうゾーンが存在する。
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手取りが逆転しない年収はいくらか──損しない働き方の目安
では何円稼げば、扶養を外れても損しないのか。
一般的に言われているのは、年収160〜170万円以上働けば、社会保険料を払っても手取りが扶養内を上回るという目安だ。ただしこれは目安であり、住んでいる都道府県の健康保険料率や、配偶者の年収、税金の配偶者特別控除の状況によって多少変わる。
ざっくり整理すると、こうなる。
- 年収130万円未満:扶養内。保険料ゼロ。手取りはそのまま残る。
- 年収130〜159万円:要注意ゾーン。扶養を外れたのに保険料負担で手取りが減る可能性が高い。
- 年収160〜170万円以上:保険料を払っても、扶養内より手取りが多くなる水準。
この「130〜159万円のゾーン」が、社会保険の扶養をめぐる最大の罠だ。わかっていても、時給が上がったり残業が増えたりすると、気づかないうちにここに入り込んでしまう。
具体的なシミュレーション(年収別の手取り比較)
たとえば年収140万円で扶養を外れた場合、年間の社会保険料負担が約18〜20万円。手取りは120〜122万円程度になる。扶養内の129万円(手取りそのまま)と比べると、むしろ7〜9万円少ない計算だ。
年収160万円まで増やせると、社会保険料を引いた後の手取りが約135〜138万円になり、ようやく扶養内129万円を上回る。
「もう少し稼ごうか」という気軽な気持ちで130〜150万円に踏み込むと損をする。これは制度の歪みで、長年問題視されているのに改善が遅れている部分でもある。
2026年の社会保険扶養の変更点──51人以上企業への適用拡大
2026年といえば、社会保険の扶養まわりでとくに注目すべき変更点がある。
106万円の壁(短時間労働者の社会保険加入義務)の対象企業が、従業員51人以上に引き下げられた。以前は「101人以上」だったのが「51人以上」に変わっている(2024年10月施行済み)。
これがどういう意味かというと、より小規模な企業に勤めるパートにも、106万円の壁が適用されるようになったということだ。これまで「うちの会社は100人以下だから関係ない」と思っていた人が、51〜100人規模の会社に勤めているなら、今は対象になっている可能性がある。
確認方法は簡単で、会社の総務や人事に「うちは社会保険の短時間労働者の対象事業所ですか?」と聞くのが一番確実だ。
…いや、これはちょっと自分で確認するのが難しいか。会社が「対象になりました」と通知しているはずだけれど、パートやアルバイトの人がそれを見落としているケースもあると思う。
ちなみに今後も段階的な適用拡大が検討されていて、将来的には全企業が対象になる可能性がある。扶養の計算は「今の会社の規模」によっても変わるので、定期的に確認しておく必要がある。
扶養内で働くメリット・デメリット2026──客観的に整理する
メリット
扶養に入ることのメリットは大きく3つだ。
①保険料の負担がゼロ
健康保険料・国民年金保険料がかからない。年間20万円前後の負担が丸ごと消える。
②年金が確保される
国民年金の第3号被保険者として、保険料ゼロで年金の加入期間が積み上がる。老後受取額にも影響する。
③手続きがシンプル
自分で健康保険や年金の手続きをする必要がない。配偶者の会社が処理してくれる。
デメリット
一方で、扶養にこだわりすぎることのデメリットもある。
①働ける時間・収入が制限される
130万円(または106万円)という上限を気にしながら働くと、働き方が制限される。稼ぎたいときに稼げない歯がゆさが出てくる。
②将来の年金受取額が少なくなりやすい
第3号被保険者として国民年金のみ積み上げる場合、老後の年金は厚生年金に自分で加入している場合より少なくなる傾向がある。
③配偶者の働き方に依存する
扶養に入れる前提は、配偶者が会社員として厚生年金に加入していることだ。配偶者が独立・転職・退職すると状況が変わる。
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扶養に入るための手続き──「被扶養者異動届」の出し方
実際に扶養に入る手続きはどうするのか。基本的な流れを整理する。
社会保険の扶養に入るには、配偶者(扶養者)の会社に「健康保険被扶養者(異動)届」を提出する。これは本人ではなく、扶養者側の会社の総務・人事部に書類を提出する形になる。
必要なもの(会社や健保によって異なる場合あり):
- 健康保険被扶養者(異動)届(会社から書式をもらう)
- 被扶養者の収入を証明する書類(退職証明書、収入が少ないことを示す書類など)
- マイナンバーカードまたは通知カードのコピー
審査は加入している健康保険組合が行う。協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合と、会社独自の健康保険組合では、審査の厳しさや必要書類が異なることがある。とくに収入の証明については、健保組合によって「直近3ヶ月の給与明細」を求めるところもある。
扶養の認定後に収入が増えて130万円を超える見込みになったときは、扶養者の会社に速やかに申告する義務がある。黙って超えていると、後から遡って保険料を請求されることもある。これは本当に怖い話で、知らなかったでは済まないケースもある。
よくある質問(FAQ)
Q: 社会保険の扶養に入れる年収の上限は2026年も130万円のままですか?
A: 基本的には130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)のままです。ただし従業員51人以上の企業に週20時間以上勤める場合は、月収88,000円(年約106万円)以上で社会保険の加入義務が生じます。勤め先の規模によって適用される壁が異なるため、自分の会社の従業員数を確認することが重要です。
Q: 130万円を少し超えたら損になるって本当ですか?
A: 本当です。年収130〜159万円あたりは「逆転ゾーン」と呼ばれ、社会保険料(年間約18〜20万円)の負担が増えることで、扶養内のときより手取りが少なくなるケースがあります。年収160〜170万円を超えれば手取りが回復します。
Q: 106万円の壁と130万円の壁、どちらが自分に関係しますか?
A: 従業員51人以上の企業で週20時間以上働いている場合は106万円の壁が関係します。それ以外の場合は130万円の壁が基本です。まず自分の勤め先が51人以上かどうかを確認してください。
Q: 扶養の「130万円」は税込み・税抜きどちらで計算しますか?
A: 社会保険の扶養における130万円は、交通費を含む税込みの総収入(見込み額)で判断されます。通勤交通費が含まれる点に注意が必要です。一方で税金の扶養(配偶者控除)では交通費は含みません。計算方法が異なるため、混同しないようにしましょう。
Q: パートを辞めたら扶養にはいつから入れますか?
A: 退職後すぐに収入が130万円未満になる見込みであれば、退職日の翌日から扶養に入れます。ただし失業給付(雇用保険の基本手当)を受け取る場合、日額3,612円以上だと受給中は扶養に入れないケースがあります。退職後は速やかに配偶者の会社の総務に確認することを勧めます。


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