同じ手続きなのに、25倍になる。
正直、この数字を見たとき「桁が違うんじゃないか」と思った。在留資格の永住許可申請にかかる手数料が、現行の約8,000円から20万円になる。5年更新でも7万円。3ヶ月以下の短期でも1万円。
友人の紹介でこの話を知ったのは、2026年3月の終わりごろだった。フィリピン出身の同僚が「日本にいつまでもいたいのに、お金が心配だ」と話していて、調べてみたらこういう法案が動いていると知った。
知らなかった。
現行制度では長年ほぼ据え置きだった手数料が、なぜ今このタイミングで、これほど大幅に引き上げられようとしているのか。誰がどう影響を受けて、いつから実施されるのか。時間軸に沿って整理する。
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在留資格の更新手数料とは何か──現行の手数料と長年据え置きになっていた背景
在留資格の手数料は、外国人が日本で生活・就労するために必要な各種手続きにかかる費用だ。入国管理局(現在の出入国在留管理庁)に申請するたびに支払う。
現行の手数料はこうなっている。
- 在留資格変更許可:4,000円
- 在留期間更新許可:4,000円
- 永住許可:8,000円
この金額、実は長年ほぼ変わっていない。数十年単位で見直しがされてこなかった制度だ。
背景には「入管行政は国の責任でコストを負担するべき」という考え方があった。在留資格の審査は国の行政サービスであり、申請者に過重な負担をかけるべきではないというロジックだ。国際的な比較では、日本の在留手数料は先進国の中でも低い水準にあった。
それが今回、大きく変わろうとしている。
入管法改正案の閣議決定と国会審議の経緯
2026年3月、政府は入管難民法の改正案を閣議決定した。在留手数料の大幅引き上げはその中に含まれている。改正案は5月から参議院で審議中で、成立すれば政令で具体的な金額が決定される。
改正案が盛り込む手数料の上限(政令で定める予定の水準)は以下の通りだ。
- 在留期間3ヶ月以下:約1万円(現行の約2.5倍)
- 在留期間5年:約7万円(現行の約17.5倍)
- 永住許可:約20万円(現行の約25倍)
この変化の幅、異常に見えるかもしれない。でも政府の説明には、それなりのロジックがある。
在留資格の更新手数料はなぜ引き上げられるのか──政府が掲げる「受益者負担の適正化」という論理
政府が引き上げの理由として挙げているのは、「受益者負担の適正化」という言葉だ。
要するに、手続きをして恩恵を受けるのは申請者本人なのだから、そのコストを適切に負担してもらうべき、という考え方だ。
実際、在留資格の審査には相当なコストがかかっている。書類の確認、データベース照合、面談、判断。人件費を含む審査コストを試算すると、現行の手数料では到底まかなえない水準らしいと政府は説明している。具体的には、永住許可の審査コストが1件あたり20万円規模になると試算されているという話だ。だから20万円という上限になる。
比較として、海外の手数料水準を見ると、アメリカの永住権(グリーンカード)申請は数百ドルから数千ドルかかる。カナダ・オーストラリアも同様に高水準だ。「日本だけが安すぎた」という見方もある。
これはこれで、一定の理屈だ。
「審査コストに見合った水準」の設定は適正か
ただ、この論理には疑問の余地もある。審査コストを申請者に全額転嫁するのが正しいのか、という点だ。
在留資格の審査は単なる申請者へのサービスではなく、国が適切に外国人の在留管理を行うという公益的な行政作用でもある。コストを全額申請者が負担するという考え方が妥当かどうかは、制度設計の根本にかかわる問いだ。
…いや、これは法学者の議論に足を踏み込みすぎかな。ただ、反対意見が出ている背景には、このような問題意識がある。
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在留手数料値上げで誰が最も影響を受けるか──技能実習・育成就労・留学生・永住申請者への打撃
影響を受ける人の規模感から言おう。2026年時点で日本に在留する外国人は約340万人。過去最多水準だ。その中で特に打撃が大きい層がある。
永住許可を目指している人
現在の日本で永住許可を申請するには、原則として10年以上の在留歴が必要だ(優遇要件あり)。長年日本で生活し、税金や社会保険料を払い続けてきた人が、最後の永住許可申請で20万円を請求される。これは感情的に受け入れがたい、という声は当然だろう。
技能実習・育成就労で働く人
技能実習制度は2027年から「育成就労」に移行する予定だ。この新制度のもとで来日する外国人は、在留期間が区切られていることもあり、更新を繰り返す。更新のたびに数万円の手数料がかかるとなると、収入水準が高くない技能職・製造業・農業などの分野で働く人には重い負担になる。
留学生
留学ビザの更新も対象になりえる。学費・生活費がかさむ中、ビザ更新手数料が数万円追加されると、経済的に厳しい留学生には大きな壁だ。
家族帯同で在留する人
配偶者ビザ、家族滞在ビザの更新も手数料引き上げの対象になる可能性がある。家族全員分の更新手数料を合算すると、負担はさらに膨らむ。
日弁連・難民支援団体が反対声明を出している理由
日本弁護士連合会(日弁連)と難民支援協会は、今回の手数料引き上げに対して反対声明を公表している。
主な論点は2つだ。
1つ目は「外国人だけに過大な負担を課すことへの疑問」だ。日本国籍を持つ人が住民票の変更や各種行政手続きをする場合、手数料は数百円程度だ。同じく日本で生活・納税している外国人が、ビザ更新だけで数万円〜20万円を払わなければならないのは、不均衡だという主張だ。
2つ目は「多文化共生への逆行」という指摘だ。日本政府はこれまで「外国人材の積極的な受け入れ」を掲げてきた。一方で手数料を引き上げることは、来日・定住のハードルを上げることにつながり、政策の矛盾を生む、という主張だ。
この点は、政府もある程度意識しているようで、減免措置や段階的な適用についての議論も行われているという。具体的な内容は、法案成立後の政令で決まる見通しだ。
在留資格の更新手数料改正・いつから・いくらになるか──実施時期と注意点
現時点(2026年5月)での状況を整理する。
入管法改正案は2026年3月に閣議決定され、現在参議院で審議中だ。衆議院は通過したとみられており、参議院での採決が焦点になっている。
仮に今国会で成立した場合、施行時期は「公布から○ヶ月後」という形で決まるのが一般的だ。早ければ2026年内に施行される可能性がある。
重要な点は、「いくらになるか」は現時点ではまだ確定していないことだ。今回の改正では「政令で定める上限額」を法律に規定する仕組みになっている。上限が法律で決まっても、実際の手数料は政令・省令で別途定められる。そのため、20万円という数字は「上限の上限」であり、政令によって実際には多少違う金額になる可能性もある。
ただし、政府が提示している試算が「永住許可の審査コスト20万円」であること、そして「受益者負担の適正化」という方針を考えると、上限付近の金額が設定される可能性は高いと見ておく方が現実的だろう。
施行前の手続きを急ぐべきか
法案の成立・施行前に永住申請や更新手続きを済ませれば、現行の手数料(8,000円)で申請できる可能性がある。
ただし、手続きを急ぐことで書類の準備が不十分になったり、申請要件を満たしていないのに申請して不許可になったりするリスクもある。施行のタイミングと自分の申請準備状況を冷静に判断することが重要だ。行政書士や弁護士など、入管手続きの専門家に相談するのが確実だ。
育成就労制度と在留手数料改正の関係──2027年以降の外国人労働者への影響
話は少し先の話になるが、育成就労制度との絡みも無視できない。
現在の技能実習制度は批判が多く、2027年から「育成就労」という新しい制度に移行する予定だ。育成就労は、最長3年間の就労を通じて技術を習得し、その後は特定技能ビザなどへの移行を可能にする仕組みを目指している。技能実習制度に比べて、外国人労働者の権利保護が強化される方向性だ。
しかしここで問題になるのが、ビザ更新・変更の手数料引き上げとのバランスだ。
育成就労で来日した人が特定技能に移行し、さらに長期的な在留を目指していく過程で、複数回のビザ変更・更新が必要になる。一回あたり数万円の手数料がかかるとなると、育成就労制度の「長期定着・共生」という理念と矛盾しないか、という指摘がある。
これはマジか、と思った。制度を整えた片方の手で、もう片方の手でハードルを上げるような格好になっている。政府がこの矛盾をどう整合させるかは、今後の政令・省令の内容で見えてくるはずだ。
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在留資格手数料値上げに対して外国人当事者が今できること
法案の動向を見守りながら、個人としてできることをまとめておく。
1. 施行タイミングを把握しておく
法案の審議状況は出入国在留管理庁の公式サイト、あるいは入管関連のニュースをフォローすることで把握できる。施行日が正式に決まれば、駆け込み申請ができるかどうかも判断しやすくなる。
2. 専門家(行政書士・弁護士)に相談する
永住許可や在留資格変更は、書類の準備・要件の確認に専門知識が必要だ。手数料の引き上げが予定される中、申請のタイミングや準備を専門家と一緒に考えることで、不許可リスクを下げられる。
3. 減免・猶予措置の情報に注意する
法案成立後、政令・省令の段階で減免措置が設けられる可能性がある。難民認定申請者、低収入者、人道的配慮が必要なケースなど、例外的な扱いが議論されている。自分が対象になりうるかどうかを確認しておく価値はある。
4. 日本語・コミュニティでの情報共有
同じ在留資格を持つコミュニティや支援団体(難民支援協会、各国コミュニティ組織など)が情報を発信している。孤立して情報不足にならないよう、つながりを持っておくことが大切だ。
よくある質問(FAQ)
Q: 在留資格の更新手数料はいつから値上がりしますか?
A: 入管法改正案は2026年3月に閣議決定され、現在参議院で審議中です。法案が成立した後、政令で具体的な金額と施行日が決まります。早ければ2026年内に施行される可能性がありますが、2026年5月時点では施行日・確定金額は未定です。出入国在留管理庁の公式情報を定期的に確認してください。
Q: 永住許可の手数料が20万円になるのは確定ですか?
A: 20万円は「政令で定める上限額の目安」です。今回の法改正は「上限を法律で定める」という枠組みを作るものであり、実際の手数料は政令・省令で別途決まります。政府が「審査コストに見合った水準」として20万円を例示していることから、近い水準になる可能性が高いと見られています。
Q: 在留資格の更新手数料値上げで特に影響を受けるのはどんな人ですか?
A: 永住許可を申請中または申請予定の方、繰り返し更新が必要な技能実習・育成就労・留学ビザの方、家族複数人が在留している世帯に特に影響が大きいとされています。収入水準が高くない分野で働く外国人労働者にとって、数万円〜20万円の手数料は重い負担となります。
Q: 施行前に永住申請を急いだ方がいいですか?
A: 申請要件をすでに満たしており、書類の準備が整っているなら、施行前の申請を検討する価値はあります。ただし、要件が不十分なまま急いで申請すると不許可になるリスクがあります。行政書士や入管専門の弁護士に相談して、状況を確認した上で判断することを強くすすめます。
Q: 育成就労制度と在留手数料値上げは矛盾しませんか?
A: この点は多くの支援団体も指摘しています。政府は外国人労働者の積極的受け入れを掲げる一方で、在留手続きのコストを大幅に引き上げることは、長期定着・共生の理念と整合しない面があります。政令の段階で低収入者向けの減免措置が設けられるかどうかが、今後の焦点になっています。


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