2026年6月。その日から、介護サービスの費用が上がる人が35万人増える。
これは「高齢者向けの話」で終わる話じゃない。親が65歳以上で介護サービスを使っているなら、来月の請求書が変わるかもしれない。本人が気づいていないケースも多い。
先月、実家の母(70歳)とLINE電話をしていたとき、こんなことを言われた。「デイサービスの費用、なんか変わるって言われたんだけど、よくわかんなくて」。その場で「調べてみる」と答えたが、調べてみたら思った以上に大きな制度改正だった。
…あれ、うちの親は該当するんだろうか。年金収入が年間240万円くらいあるはずで、もしかするとギリギリのラインだ。
今回の記事では、2026年6月に施行される介護保険の「2割負担拡大」について、現行制度の整理から対象の確認方法、毎月の負担増の具体的な金額、そして使える制度まで順番に見ていく。
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介護保険の「2割負担」とは何か──現行制度をまず整理する
介護保険では、利用者が実際にサービス費用の一部を自己負担する仕組みになっている。その負担割合が1割・2割・3割の3段階に分かれていて、所得に応じて決まる。
多くの人が「介護保険は1割負担」というイメージを持っているが、それは全員に適用されるわけではない。一定以上の所得がある人は2割、さらに高所得層は3割を負担する。
制度の仕組み上、この負担割合は毎年8月に見直しされる。前年の所得をもとに判定され、「介護保険負担割合証」という書類で通知される。知らないうちに負担割合が変わっていた、というケースも少なくない。
1割・2割・3割、現行制度での決まり方
現行(2026年5月時点)の基準はこうなっている。
65歳以上の第1号被保険者の場合、本人の合計所得金額と年金収入などをもとに判定される。
- 1割負担:合計所得金額が220万円未満(おおよその目安)
- 2割負担:単独世帯で年収280万円以上、夫婦世帯で346万円以上
- 3割負担:単独世帯で年収340万円以上
現行制度では65歳以上の上位20%が2割負担の対象とされている。残り80%は1割負担だ。これが今回の改正で変わる。
なお、40〜64歳の第2号被保険者は所得にかかわらず1割負担が原則。今回の改正で直接影響を受けるのは65歳以上の人たちだ。
2026年改正で何が変わる?新しい「2割負担」の年収基準
2026年6月から施行される改正の核心は、2割負担の対象を「上位20%」から「上位30%」に広げるという点だ。
35万人だ。
それだけの人が新たに1割から2割へと引き上げられる。「大した変化じゃない」ではなく、かなり大きな影響範囲だ。
具体的な所得基準として現在議論されているのが、単独世帯で年収230万円以上を新たな2割負担ラインとする案だ(現行280万円→改正後230万円)。年収にして50万円の引き下げ。この変更が実現すると、年金収入が月換算で約19万円程度の人でも対象になりうる。
一方、3割負担の基準は現行のまま単独世帯で年収340万円以上が維持される見通しだ。
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年収230万円ラインで35万人が影響を受ける計算
なぜ35万人という数字が出てくるのか。厚生労働省の試算では、現行の2割負担対象者(上位20%)から上位30%まで拡大すると、この差分にあたる約35万人が新たに対象となる。
年収230万円という数字は、多くの年金受給者にとって決して「高収入」ではない。会社員として働いていた人の厚生年金に企業年金が少し上乗せされる程度のレベル感だ。退職後の生活費をギリギリで賄っているような人も、対象に含まれてくる可能性がある。
これは他人事じゃない。
「うちの親はそんなに年金もらってないから大丈夫」と思っている人も、一度具体的な金額を確認した方がいい。厚生年金と基礎年金を合わせると、意外と230万円のラインに近いケースがある。
また、夫婦世帯では世帯収入の合算や世帯分離の状況によって判定が変わることもある。単純に「夫婦だから2倍のラインが適用される」ということはなく、個人単位で判定されるため、注意が必要だ。
自分の親は対象になる?負担割合の確認方法
「うちはどうなんだろう」と思ったら、確認する方法は一つある。「介護保険負担割合証」を見ることだ。
これは介護保険の被保険者全員に交付されているカード型の書類で、現在の負担割合が記載されている。財布の中か、介護保険証と一緒に保管しているはずだ。見当たらない場合は、市区町村の介護保険担当窓口に連絡すれば再発行できる。
先月の実家への電話の後、母に「介護保険の緑色のカードと一緒に白いカードは入ってる?」と聞いたら、「あ、これかな」とすぐ見つかった。「負担割合:1割」と書いてあったが、230万円ラインが適用されたとき、どうなるかはまだわからない。年金の受取額を確認してみようと思っている。
介護保険負担割合証の見方と毎年8月の更新
負担割合証には、有効期間が記載されている。毎年8月1日に更新されるため、前年の所得に基づいて判定が切り替わる。
2026年6月の改正後も、次の判定は2026年8月に行われる(前年2025年の所得に基づく)。つまり、6月の改正タイミングと8月の年次更新が重なる形になる。改正後の新基準での初回判定が2026年8月となる見込みだ。
確認の手順としては:
- 介護保険負担割合証を探す(介護保険証と同封されていることが多い)
- 現在の負担割合と有効期限を確認
- 年金の年間受取額を「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認
- 年収が230万円前後なら、市区町村窓口に改正後の判定について問い合わせる
特に、現在1割負担で親が年収220〜260万円程度という場合は、2026年8月以降に2割になる可能性が高いため、今のうちから準備しておく価値がある。
月の負担がいくら増えるのか──具体的な金額シミュレーション
「2割になる」とわかっても、毎月の支払いがどれくらい変わるのかが気になるところだ。
介護保険の利用者負担は、利用したサービスの総費用に負担割合をかけた金額になる。要介護度が高いほど使えるサービス量も増え、費用も大きくなる。
目安として、要介護2の人が在宅サービスを月の上限額いっぱい使った場合、サービス費の総額は約20万円になる。このとき:
- 1割負担なら:約2万円
- 2割負担なら:約4万円
差額は月2万円。年間にすると24万円の違いだ。実際にはこのMAX利用するケースは少ないが、週3〜4回のデイサービスと月1回のショートステイを組み合わせると、月の負担差は数千円〜7,000円程度になるケースが多い。
施設入所の場合、さらに食費の変更も重なる。2026年6月からは、施設入所時の食費の基準費用額が1日1,445円から1,545円に引き上げられる。月換算で約3,000円の追加負担だ。2割負担になった分と食費増が重なると、月の負担が合計で5,000〜1万円程度増える人もいる。
「月数千円くらいなら大丈夫」と思うかもしれないが、介護費用は突発的に増えることも多い。今の家計の余裕度を確認しておく必要がある。
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なぜ2026年に改正されるのか──介護保険財政の現実
「なんでこのタイミングで負担が増えるんだ」という疑問は当然だ。
理由は大きく二つある。一つは介護保険財政の悪化、もう一つは「2025年問題」と呼ばれる人口構造の変化だ。
介護保険制度は2000年に始まった。当初の想定より早く財政は圧迫されてきており、給付費(国が支払う介護サービス費用の総額)は年々増え続けている。2024年度の給付費は約13兆円を超えると見られており、制度開始時の5倍以上の規模になっている。
2025年問題というのは、団塊の世代(1947〜49年生まれ)が2025年に全員75歳以上の後期高齢者になることを指す。この世代は人口が特に多く、介護サービスの需要が急増することが予測されていた。実際に2025年を境に申請件数も増えているという。
その財源を確保するために、「現役世代の保険料だけでなく、一定の所得がある高齢者にも応分の負担をお願いする」という方向性が出てきた。今回の2割負担拡大はその一環だ。
…いや、これはちょっと違うか。「財政が苦しいから負担を上げる」という構図は正しいが、現行でも上位20%が2割負担をしているのに、30%まで広げることへの批判も根強い。年収230万円は決して「余裕のある高齢者」ではないという声もある。制度の公平性については、まだ議論が続いている。
負担増に備える「高額介護サービス費制度」の活用法
2割負担になっても、無制限に費用がかかり続けるわけではない。「高額介護サービス費制度」という仕組みがあり、月の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が後から払い戻される。
上限額は所得に応じて異なる。現行の主な区分は以下の通りだ:
- 課税所得380万円以上(概ね年収770万円以上):月44,400円
- 課税所得145万円以上(概ね年収383万円以上):月44,400円
- 一般(住民税課税世帯):月44,400円
- 住民税非課税世帯:月24,600円(さらに低い設定あり)
つまり、住民税が課税されている世帯の多くは月44,400円が上限になる。これを超えた分は申請すれば返ってくる。
注意点は「自動で払い戻されるわけではない」という点だ。初回は申請が必要で、市区町村の介護保険担当窓口に「高額介護サービス費の支給申請書」を提出する。一度申請すると翌月以降は自動的に振り込まれるようになる仕組みなので、まだ申請していない人は今すぐ確認するといい。
2割負担になった場合、高額介護サービス費制度の上限に達するケースが増える可能性がある。毎月の明細を確認し、上限に近づいているようであれば申請の準備をしておく価値がある。
また、医療費と介護費の両方が高額になった場合は「高額医療・高額介護合算療養費制度」という別の仕組みも使えることがある。年間単位での上限設定なので、年末に合算して申請する形になる。介護保険担当窓口に問い合わせれば案内してもらえる。
よくある質問(FAQ)
Q: 2026年6月の介護保険改正で2割負担になる年収のラインは?
A: 改正案では単独世帯の年収230万円以上が新たな2割負担の対象になる見込みだ。現行の280万円から50万円引き下げられる予定で、約35万人が新たに対象になると試算されている。詳細は自治体窓口または介護保険負担割合証で確認できる。
Q: 現在の自分の介護保険負担割合はどこで確認できる?
A: 「介護保険負担割合証」に記載されている。毎年8月に更新され、介護保険証と一緒に送付されることが多い。見当たらない場合は市区町村の介護保険担当窓口で再発行してもらえる。
Q: 2割負担になったとき、月の費用はどれくらい増える?
A: 利用サービスの内容によって異なるが、在宅介護の一般的な利用ケースで月3,000〜7,000円程度の増加が見込まれる。施設入所の場合は食費引き上げ(1日+100円)も重なるため、さらに3,000円程度加算される場合がある。
Q: 高額介護サービス費制度とはどんな仕組みか?
A: 月の介護サービス自己負担額が上限を超えた場合に、超過分が払い戻される制度だ。住民税課税世帯の上限は月44,400円。初回は市区町村への申請が必要で、一度申請すると継続して適用される。2割負担になったタイミングで申請を検討するとよい。
Q: 65歳以上の親が介護保険を使っていない場合も影響はある?
A: 現時点でサービスを使っていなければ影響はないが、今後利用開始した際の負担割合に関わる。年収が230万円前後なら事前に自治体に確認しておき、将来の介護費用の見通しを立てておくと安心だ。


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