去年まで、年収600万円の家庭は対象外だった。今年から、その制限がなくなった。
2026年度から、高校の授業料無償化の所得制限が撤廃された。「うちは年収がちょっと高いから、もらえないんだよね」と諦めていた家庭が、今年の4月から制度の対象に入った。静かな変化だったが、実際に子どもを高校に通わせている家庭にとっては、かなり大きい話だと思う。
これは大きい。
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問題:「うちは対象外です」が消えた2026年度──所得制限撤廃の背景
正直、これまでの高校無償化の制度は「複雑すぎてよくわからない」という声が多かった。対象になるのかならないのかが年収によって変わり、しかも私立と公立では金額も違う。子どもが高校に上がるタイミングで調べても、「うちは微妙なラインかも」となる家庭が少なくなかった。
これまでの高校無償化の所得制限とは何だったのか
そもそも高校の授業料支援制度は、2010年に始まった「高校無償化」が原型にある。公立高校は授業料そのものを無償にし、私立高校には就学支援金を支給する形で運用されてきた。ただし、その後の制度改正で所得制限が設けられ、年収の目安として「約910万円」というラインが生まれた。
この910万円という数字、夫婦と子ども2人のモデル世帯で計算した場合の「市町村民税の課税標準額×6%-市町村民税の調整控除額」が50万7,000円以上かどうかで線引きされていた。実際には年収ではなく税額で判定するため、家族構成や控除の内容によってギリギリ対象外になる家庭も多かった。
「所得の計算方法が特殊だから、源泉徴収票を見ても自分が対象かどうかわからない」という話はよく聞いた。それだけでも、制度として使い勝手が悪かったといえる。
年収910万円の壁で弾かれてきた家庭の実態
共働きで合算すると年収が910万円を超えてしまう家庭、あるいは一馬力でもそのラインに近い家庭は、支援をまったく受けられないまま月に1〜3万円程度の授業料を払い続けてきた。
子どもが2人以上いれば、その負担は単純に倍になる。上の子が高3で下の子が高1、というタイミングが重なれば、月あたりの授業料だけで4〜6万円。そこに制服、部活の費用、学校指定の教材費が重なると、家計の圧迫感は相当なものになる。
僕の友人で、子どもが2人いる家庭がある。夫婦で共働き、年収合計が約900万円台後半。去年まではずっと「うちはギリギリ対象外」と言っていた。今年の春、「なんか支援金が振り込まれてた」とLINEが来た。「えっ、今年から変わったの?」というやり取りになって、初めてこの制度の変更を知ったらしい。……いや、もう少し広く周知されてよかったと思うんだけど、これはちょっと情報が届いていない気がする。
体験:実際に変わったこと──具体的な金額で確認する
制度が変わったことはわかった。では、実際にいくら変わるのか。抽象論より、数字で確認した方が早い。
公立高校:授業料0円(月額9,900円が無償化)
公立高校の授業料は、全国一律で月額9,900円(年間11万8,800円)が就学支援金で実質無償となる。これは2026年度から新たに始まったわけではなく、これまでも所得制限の範囲内では適用されていた制度だ。
変わったのは、所得制限がなくなった点。年収が高くても、公立高校に通っているなら授業料は実質ゼロ円になる。ただし「実質」というのは、就学支援金が学校に直接支払われる仕組みのためで、保護者が現金をもらうわけではない。
助かる。
私立高校:加算額が45万7,000円に引き上げ──全国平均授業料をカバー
私立高校については、加算される就学支援金の上限額が変わった。従来は年間39万6,000円が上限だったが、2026年度からは45万7,000円に引き上げられた。
この45万7,000円という数字は、文部科学省が調査した私立高校の全国平均授業料を根拠にしている。つまり「全国平均程度の授業料なら、就学支援金でカバーできる水準」を目指した引き上げだ。
実際のところ、私立高校の授業料は学校によって大きな差がある。全国平均より安い学校なら支援金が授業料を上回るケースもあるし、都市部の人気私立では授業料が60〜80万円台になることもある。支援金で足りない分は自己負担になる点は、後で詳しく触れる。
地域差がある「上乗せ支援」の話
国の制度と別に、都道府県独自の上乗せ支援がある都市では、実質的な負担額がさらに下がる。
東京都はその典型で、都の独自制度と国の支援金を合わせると、私立高校の授業料が実質無償になる所得水準が高く設定されている。大阪府も独自に私立高校の授業料無償化を進めており、国の制度と合わせると幅広い家庭が恩恵を受けやすい環境にある。
逆に、上乗せ支援が限定的な地域では、国の支援金だけが頼りになる。住む場所によって実質的な教育費負担がかなり変わることは、制度全体の「地域格差」という問題でもある。
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解決:手続きはどうすればいいか──学校が対応するケースが大半
「制度が変わったのはわかった。じゃあ、何か手続きが必要なのか?」という疑問は当然だと思う。結論からいうと、多くのケースで保護者が自分で動く必要はほとんどない。
就学支援金は学校が国に申請し、直接学校に支払われる仕組みになっている。保護者は学校を通じて「収入状況届出書」などの書類を提出するだけで、学校側が手続きを進める流れが一般的だ。
新入生の場合は入学時に必要書類の案内が来る。在校生の場合は学校から「今年度の手続きについて」という書類が配布されるはず。不安なら学校の事務室か担任に確認するのが確実だ。
在校生も対象になるか?
2026年度からの所得制限撤廃は、新入生だけでなく在校生にも適用される。今年度の申請期間内に必要書類を提出すれば、2026年4月分から支援金の対象となる。
「もしかしてうちも対象になった?」と思っている家庭は、すぐに学校に確認してほしい。手続きに期限があるケースが多いので、出遅れると今年度分が受け取れなくなる可能性もある。
専修学校・通信制はどうなる?
今回の無償化の対象は、高校だけではない。高等専門学校(高専)の1〜3年生、専修学校の高等課程(いわゆる「専門学校の高校相当課程」)、そして通信制高校も対象になっている。
通信制高校については、スクーリング費用など授業料以外の費用が別途かかることが多く、就学支援金で賄えない部分が生じやすい点は頭に入れておく必要がある。また、学校の所在地ではなく生徒の住所地の都道府県が給付を管理するため、広域通信制の場合は手続き先を確認しておきたい。
落とし穴①:「無償化≠タダ」に注意──授業料以外の費用
「高校が無料になった!」というのは、正確には「授業料が無償化された」という意味だ。この違いは、実際に子どもを高校に通わせるとかなり重要になる。
制服・修学旅行・部活動費は別途かかる
授業料以外で高校生活にかかる費用を列挙すると、相当な額になる。
制服は入学時に一括でかかることが多く、一式そろえると5〜10万円程度が普通だ。修学旅行の積立金は年間を通じて集金され、合計で5〜10万円になるケースも多い。部活動の費用は活動内容によって差が大きいが、道具・遠征・大会参加費を合わせると年間で数万〜十数万円かかることもある。
さらに教科書・教材費、スタディサプリや塾代、大学受験に向けた模試代……。「高校無償化になったから教育費が楽になった」とはなかなかいかないのが現実だ。
マジか、と思う人もいるかもしれないけど、これは知っておかないといけない。
私立の授業料が全国平均より高い場合はどうなる
私立高校の就学支援金は年間45万7,000円が上限だ。しかし都市部の私立高校では、年間授業料が60万円、70万円、学校によっては80万円を超えるところもある。
この場合、就学支援金との差額は保護者の自己負担になる。たとえば授業料が年間70万円の学校なら、45万7,000円を差し引いた約24万円が毎年の負担として残る。これは制度の「穴」というより、全国一律の支援に対して学校ごとの授業料設定に差がある構造的な問題だ。
「どうせ私立は全部タダになるんでしょ」という誤解が一番危ない。志望する学校の授業料と支援金の上限を照らし合わせて、差額がどのくらいかを把握しておくことが必要だ。
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落とし穴②:大学の費用はまだ重い──高校無償化の次の壁
高校が無償化されたとして、その次に控えているのが大学の費用だ。これがまた重い。
大学の授業料免除や給付型奨学金の制度(高等教育の修学支援新制度)は存在するが、対象となるのは主に住民税非課税世帯やそれに準じる低所得世帯だ。高校の無償化で所得制限が撤廃されたのとは対照的に、大学の支援は依然として所得による線引きが残っている。
国公立大学の年間授業料は現在約53万円、私立大学の平均は約90〜100万円。これに入学金、生活費(一人暮らしなら月10〜15万円)が加わる。4年間の総コストを考えると、子ども1人につき数百万から1,000万円超の教育費がかかることもある。
「高校が無料になっても、大学の費用は全然違う」というのが、今の制度の正直な実態だ。高校無償化は重要な一歩だが、そこで安心してしまうと大学進学時に資金的に詰まるリスクがある。高2や高3になる前から、奨学金の種類や大学の授業料・奨学金制度を調べ始めることを勧めたい。
こどもの日に考える「教育費と少子化」の関係
5月5日、こどもの日。この記事を書きながら、少子化と教育費の話は切り離せないと改めて感じている。
内閣府や民間調査機関が行った子育て意識調査では、「子どもを持つことを躊躇した理由」として「経済的な不安」「教育費の負担」が毎回上位に挙がる。「もう1人欲しいけど、お金が心配で」という言葉は、周りでも何度も聞いた。
今回の高校無償化の拡充は、自民党・公明党・日本維新の会の3党が合意して実現した。政治的な背景はあるにせよ、所得制限の撤廃という方向性は「子育て世帯の教育費負担を所得に関係なく下げる」という意味で、少子化対策として評価できる部分がある。
ただ、高校の授業料が無償になったとしても、それだけで「子どもを持とう」という決断に直結するかは難しい。保育所・幼稚園・小学校・中学校・高校・大学と続く教育費の全体像で見れば、高校の4年間が一つ軽くなったことは、あくまで部分的な改善に過ぎない。
とはいえ、制度が変わって対象が広がったことは事実だ。知らずに損をするのがもったいない。せめて自分の家庭がどう変わったかだけでも、確認しておく価値はある。
よくある質問(FAQ)
Q: 2026年度の高校無償化で所得制限が撤廃されたとは、具体的にどういう意味か?
A: これまで年収約910万円以上の世帯は就学支援金を受け取れませんでしたが、2026年4月以降はすべての世帯が対象になりました。公立高校なら月額9,900円の授業料が実質ゼロ、私立高校なら年間最大45万7,000円の支援金が支給されます。
Q: 私立高校の授業料が45万7,000円より高い場合、差額はどうなる?
A: 差額は自己負担になります。たとえば授業料が年70万円の学校なら、支援金45万7,000円との差額約24万円は保護者が支払う必要があります。都道府県独自の上乗せ支援がある場合は負担が軽くなることもあります。
Q: 在校生(高1・高2)も2026年度の無償化の対象になるか?
A: なります。新入生だけでなく在校生も対象です。学校から書類が配布されるので、期限内に提出してください。手続きが遅れると今年度分が受け取れなくなる場合があるので、早めに学校に確認することをお勧めします。
Q: 通信制高校も高校無償化の対象になるか?
A: はい、通信制高校も対象です。ただし通信制の場合はスクーリング費用など授業料以外の費用がかかることが多く、就学支援金だけでは賄えない部分が生じやすい点に注意が必要です。
Q: 高校無償化と大学の無償化制度は別物か?
A: 別制度です。大学の授業料免除・給付型奨学金(高等教育の修学支援新制度)は、主に住民税非課税世帯など低所得世帯が対象で、所得制限が残っています。高校と違い、年収が高い世帯は大学の支援を受けにくい状況です。


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