「親が亡くなったんだけど、相続って何から始めればいい?」と職場の先輩に聞かれて、うまく答えられなかった。
先月のことだ。先輩のお父さんが急に亡くなって、葬儀が終わったあと、ぽつりとそう聞いてきた。僕は「えーと、役所に届け出が必要で、あとは弁護士か司法書士に……」とかなんとか言ったけど、自分でも何を言っているのかよくわかっていなかった。先輩の困った顔が、今でも頭に残っている。
そのあと自分で調べてみたら、相続手続きって思っていたより複雑だった。期限がいくつもあって、やることが段階的に変わる。しかも2026年は制度がいくつか変わっていて、知らないと損したり、罰則を受けたりするケースもある。
……あれ、これは自分も把握できていなかったかもしれない。先輩に答えた内容、半分くらい間違っていたかもしれない。
この記事では、相続が発生してから何をどの順番でやればいいか、期限ごとに整理した。必要書類リストも2026年版で更新している。
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相続が発生したら、まず7日以内にやること──死亡届の提出と火葬許可
人が亡くなってから最初にやるべきことは、感情的にも体力的にもしんどい時期に集中している。葬儀の手配と並行して、法的な手続きが動き出す。
死亡届は、死亡を知った日から7日以内に、故人が亡くなった場所か、届出人の住所地の市区町村に提出しなければならない。提出先は市区町村の窓口で、提出すると同時に「火葬(埋葬)許可証」が発行される。これがないと火葬ができないため、葬儀社と連携して進めることが多い。
死亡届に必要なのは、医師が作成した「死亡診断書」(または「死体検案書」)と、届出人の印鑑。届出人になれるのは、同居の親族、その他の親族、同居者、家主・地主・家屋管理人など。基本的には配偶者か子どもが届け出ることになる。
7日以内。これは短い。
しかも葬儀と並行してやるわけだから、精神的な余裕はほぼない。事前に「自分が届け出る立場になったらどうするか」を頭に入れておくだけで、だいぶ違う。
あわせて、故人が世帯主だった場合は「世帯主変更届」も14日以内に必要だ。マイナンバーカードの返却や、健康保険・年金の資格喪失届なども期限がある。役所の窓口でまとめて確認するのが現実的だろう。
3ヶ月以内に決断が必要──相続放棄・限定承認・単純承認の違いと選び方
死亡届を出して少し落ち着いたと思ったら、次は「どう相続するか」を決めなければならない。この判断の期限が、相続開始を知った日から3ヶ月以内。
3ヶ月は短い。
選択肢は三つある。
ひとつ目は「単純承認」。プラスの財産もマイナスの財産(借金)も全部引き継ぐ。何もしないと自動的にこれになる。
ふたつ目は「相続放棄」。財産を一切引き継がず、借金も引き継がない。家庭裁判所に申立てが必要。
みっつ目は「限定承認」。プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き受けるという方法。相続人全員で申し立てる必要があり、手続きが複雑なため実際にはあまり使われない。
相続放棄を選ぶべきケースとは
親が多額の借金を抱えていた場合、相続放棄を検討することになる。ただし、一度相続放棄をすると原則として取り消せない。また、相続放棄をした人の分は、次の順位の相続人(例:子が放棄すると親や兄弟)に権利が移っていくため、親族全体で話し合いが必要になるケースもある。
注意点として、故人の財産に手をつけてしまうと「単純承認したとみなされる」ことがある。形見分けで服や日用品をもらう程度は問題ないとされているが、預貯金を引き出したり、不動産を処分したりすると、相続放棄ができなくなる場合がある。
迷ったら弁護士か司法書士に相談する。3ヶ月の期限内に判断できない事情がある場合は、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長申請」ができる。放置するのが一番まずい。
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遺産の全体像を把握する──2026年新制度「所有不動産記録証明」の活用法
相続の判断をするためには、まず故人がどれだけの財産を持っていたかを把握しなければならない。ところが、これが意外と難しい。
特に不動産は厄介だ。「実家の土地があるのはわかっているけど、ほかにも持っていたかもしれない」という状況が、家族でもよくある。昔の人ほど、不動産の権利関係を家族に説明していないケースが多い。
そこで役立つのが、2026年2月から始まった「所有不動産記録証明制度」だ。これは、故人(または本人)が所有するすべての不動産の一覧を、法務局から証明書として取得できる新しい制度。
取得できる情報は、不動産の所在・地番・地目・地積(土地の場合)や、所在・家屋番号・構造・床面積(建物の場合)など。全国にある不動産を一枚の証明書でまとめて確認できる。
料金は1通1,600円。法務局の窓口で申請できるほか、オンライン申請も可能だ。
相続人が故人の名義で申請することもでき、この制度ができるまでは「全国の法務局を個別に照会する」「固定資産税の課税明細書をかき集める」しかなかったことを考えると、格段に便利になった。
不動産以外の財産(預貯金・株式・生命保険・負債)については、通帳の履歴確認、証券会社への照会、生命保険の照会制度などを使って調べる。手間はかかるが、この段階で全体像を把握しておかないと、後の手続きがすべてぶれる。
遺言書がある場合とない場合で相続手続きがどう変わるか
財産の全体像が見えてきたら、次は「誰が何を引き継ぐか」を決める段階に入る。ここで鍵になるのが、遺言書の有無だ。
遺言書の種類は三つある。「自筆証書遺言」(全文を自書したもの)、「公正証書遺言」(公証役場で公証人が作成したもの)、「秘密証書遺言」(内容を秘密にして公証人が存在だけ証明したもの)。現実的によく使われるのは自筆証書遺言と公正証書遺言の二種類だ。
遺言書が見つかった場合、封をされた自筆証書遺言は勝手に開封してはいけない。家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければならない(法務局に預けてある「法務局保管の自筆証書遺言」は検認不要)。公正証書遺言はそのまま使える。
法定相続分と遺産分割協議のやり方
遺言書がなければ、法定相続分に基づいて相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を行う。法定相続分の順位は次の通りだ。
配偶者は常に相続人。子どもがいれば「配偶者:1/2、子ども全員で:1/2」。子どもがいなければ「配偶者:2/3、親(父母)で:1/3」。子どもも親もいなければ「配偶者:3/4、兄弟姉妹で:1/4」。
遺産分割協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・実印を押印する。この書類が、その後の名義変更や口座解約に必要になる。全員の合意がないと成立しないため、疎遠な親族がいる場合は早めに連絡を取ることが大切だ。
相続登記の義務化──違反すると10万円の過料
不動産を相続したら、名義変更(相続登記)が必要だ。これは2024年4月から義務化されており、相続を知った日から3年以内に登記しなければならない。
違反した場合は10万円以下の過料が科される。これは本当に見落としやすいポイントで、「実家を売るつもりもないし、急がなくていいか」と放置している人が多い。義務化前に相続した不動産についても経過措置があり、対象になる場合があるので注意が必要だ。
あわせて、2026年4月からは「住所変更登記」も義務化された。住所が変わったら2年以内に登記変更が必要になる。相続登記と同様に罰則がある。不動産を持っている人はセットで覚えておきたい。
10ヶ月以内に終わらせる相続税申告──基礎控除の計算方法と申告が必要かの判断
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内だ。申告先は故人の住所地を管轄する税務署。
ただし、すべての相続に相続税がかかるわけではない。まず「基礎控除額」を計算する必要がある。
基礎控除額の計算式はこうだ。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円が基礎控除額になる。相続財産の総額がこの金額を超えていなければ、相続税の申告は不要だ。
実際には、相続財産が基礎控除内に収まる家庭が多い。ただし、不動産の評価額は「路線価」などを使って計算するため、帳面上の数字より高くなることもある。「土地があるから大丈夫だろう」と思っていたら申告が必要だった、というケースは珍しくない。
相続税がかかりそうな場合は、税理士に依頼するのが無難だ。相続税申告は計算が複雑で、特例(配偶者控除、小規模宅地等の特例など)を使えるかどうかで納税額が大きく変わることがある。
また、4ヶ月以内という別の期限もある。故人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、「準確定申告」が必要になる場合だ。故人に給与所得や事業所得があった場合に該当する。こちらの申告期限は相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内なので、相続税とは別のタイミングで動く必要がある。
相続手続きで必要な書類リスト2026年版──何を集めればいいか
相続手続きで頻繁に使う書類をまとめた。手続きの種類によって必要なものは異なるが、共通して使うものを中心に整理している。
故人関連の書類
- 除籍謄本(出生から死亡までの全戸籍)──法定相続人を確定するために必要。本籍が変わっていると複数の市区町村に請求が必要になる
- 住民票の除票
- 固定資産税評価証明書(不動産がある場合)
- 登記簿謄本(不動産がある場合)
- 預貯金通帳・証券口座の資料
- 生命保険証書
相続人全員の書類
- 戸籍謄本(相続人全員分)
- 印鑑証明書(相続人全員分)──遺産分割協議書に押印した実印のもの
- 住民票
手続きに応じて必要な書類
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
- 遺言書(ある場合)
- 相続放棄申述書(放棄する場合、家庭裁判所に提出)
除籍謄本は戸籍の管理が紙からデジタルに移行した市区町村が増えているが、古い時代の記録は紙のままのケースも多い。コンビニで取得できる戸籍は現在の謄本のみで、過去に遡る除籍謄本は窓口対応になる場合がほとんどだ。早めに動き始めることが大切で、郵送で請求することもできる。
なお、2026年2月に始まった「所有不動産記録証明制度」では、相続人が代理で故人の不動産リストを取得できる。法務局の窓口またはオンラインで申請でき、1通1,600円。不動産の全体像を把握するための最初の一手として使いたい。
よくある質問(FAQ)
Q: 相続手続きは何から始めればいい?優先順位を教えてください。
A: まず死亡届(7日以内)を市区町村に提出します。その後、相続放棄か単純承認かを3ヶ月以内に決め、遺産の全体像を把握するため通帳・不動産・保険を調査します。相続税申告が必要な場合は10ヶ月以内が期限です。
Q: 相続税は必ず払わないといけない?基礎控除の金額はいくら?
A: 相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)以内なら申告不要です。相続人が3人なら控除額は4,800万円。多くの家庭はこの範囲内に収まりますが、不動産の評価額に注意が必要です。
Q: 相続登記を放置するとどうなる?義務化の内容は?
A: 2024年4月から相続登記は義務化されており、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。売る予定がなくても放置はNGです。義務化前の相続にも経過措置があります。
Q: 所有不動産記録証明制度とは何か?いつ使えばいい?
A: 2026年2月から始まった制度で、故人が所有していた全国の不動産一覧を法務局から一通の証明書として取得できます。1通1,600円でオンライン申請も可能。遺産の全体像を把握したい相続開始直後の段階で活用できます。
Q: 遺言書がない場合、相続はどう進める?
A: 法定相続分に基づき、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。合意内容を「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名・実印を押印。この書類をもとに、預貯金の解約や不動産の名義変更を進めます。


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